【建設AI対談 – 後編】建設業界にもAIが「あたりまえ」になった未来に、それでも「人間」ができることは

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情報化によってゼネコンや組織設計事務所の役割はどう変わるか?

石田:まぁ、AIでの自動化に限らず、ゼネコンはいま、それまでインハウスでやってきたことをどんどん外に出していく流れにあるので、「そもそもゼネコンの役割ってなんだろうね」みたいなことを考えなきゃいけないですよね。

小笠原:やっぱりいま情報がどんどんクラウド化しているじゃないですか。Autodeskを走りとして、そういうところに建設データが蓄積されていくと、AIそのものをどう活用するかっていうサービスも、ゼネコンとか大きな組織ではなく、おそらくIT企業の側から出てくると思います。
近い将来、建設でもAI活用のビッグピクチャーは、AutodeskやGoogle、Microsoftが持つようになって、現場で手で触る部分は専門工事業者さんが持っていって、ということが起こる可能性が非常に高い。建設業のどの部分に対してAIを適用するのか、ビジョンをちゃんと持つことが大事な局面で、ゼネコンはなかなか難しい立場になると思いますよ。

中島:企業ごとの競争というより、業界全体が変わっていく中でのゼネコンの立ち位置というか、最後に残るゼネコンのコアは何かっていうことを考えないといけないですよね。実はそれは、IT業界が歩んできた道と重なるのかもしれません。SIerのことを業界で「ITゼネコン」と呼ぶ向きもありますが、たとえば、コードの集約とバージョン管理をSIerがやっていたのが、GitHubで全部できちゃうようになるというふうに、それまでやってきたことが標準化可能なノンコア業務になってしまう、ということが起こる。その繰り返しの中で最後に残るコアな役割というのは、与信とリスク管理だと思います。それは建設ゼネコンも同じなのかなと。

石田:そうですね、やっぱりウェットな調整力をIT技術、AIをはじめとした新技術が代替できるようになれば、いよいよゼネコンは必要ないかもしれないけど、けっこう難しいんじゃないかなっていう気はしますね。
企画立案からいろんなプレイヤーが来て、不思議な契約方式が山のように生まれて、関係者ばっかり増えるけど誰が決定してるのか誰もよくわかってない、みたいな寄せ集めで複雑化したプロジェクトってあるじゃないですか(笑)。それでも、誰も困らず、ちゃんと動いて、工期も守られるってことが起こるのは、やっぱりゼネコンが頑張って調整しているところが大きいんだと思いますよ。

志手一哉(以下、志手):今までの日本のゼネコンって、かなりものづくりの方に寄っていて、海外でいうと付帯サブコンの領域までガッツリとやっていたわけですけど、その部分はもうどんどんサブコンに任せていって、これからはもっとコーディネイターの方に行くと思うんですよね。工事現場の方に注目をしたAIの開発とか活用は、もうゼネコンはやらなくていいんじゃないのと。むしろ今ゼネコンに求められているのは、設計の中でも「実施設計」の部分、ここがゼネコンにしかできない役割じゃないかなと思いますよ。そうするとむしろ、役割や存在意義が問われるのは組織設計事務所の方なんじゃないかという気がします。

志手一哉
1971年生まれ。1992年株式会社竹中工務店入社、施工管理、生産設計、研究開発に従事。2009年に修士(専門職)、2013年に博士(工学)を取得後、2014年に芝浦工業大学 工学部建築工学科准教授、2017年4月より同大学建築学部建築学科教授。

石田:まぁでも、組織設計事務所の方はデザイン的なものを担保していくんじゃないですかね。基礎設計までは設計事務所にやらせて、後半の実施設計はゼネコンにやらせるみたいな流れが、「デザインビルド」という名前で定着しましたし。

小笠原:組織設計事務所の方と話していても、やっぱりデザインビルドの流れは避けられないので、より上流のコンセプト企画やデザイン的なところにいく必要があると言ってましたね。そもそもこの企画って大丈夫なのか、どういうものを作ったらいいのかといった問いから入る。あるものを使って適切に建てていくというよりは、今「ないもの」を考えて、いったい何を作ったらいいのかっていう企画に設計者っていうのは入るべきなんじゃないかと。ただ、そうすると今度は、新しい発想やコンセプトの提示はアーティストの方が長けてるんじゃないかみたいな悩みもあるみたいです。

石田:あー、なるほど。まぁでも、アーティストとか外部の人にはわからない業界ならではのノウハウが意外とあるので、そんなにライバルにならないんじゃないかなあ?自治体ごとに都市計画の基本的な方針が意外と違うから、どうやって収益性の高い建物を建てていくかっていうコツも自治体によって違ってくるんですよ。で、意外とこれが組織設計の人たちにしかわからない領域で。「こういう建物を作るから街が良くなるんです」みたいなプレゼンテーションとか、まちづくりの説明会で、「設計者が住民に直接話しにいきますよ」とか、長年の付き合いの中でなせるウェットな調整力というのが、ゼネコンとは違う部分で組織設計事務所にはあるみたいで、だから結局、どれも意外となくならないかもしれない(笑)。

中島:ゼネコンや組織設計事務所はじめ、建設業界のプレイヤーそれぞれの役割や分解点がより明確になっていく中で、今後も企業が生き残るためにやるべきことや、個人が建設業界で生き残る人材になるために、どんなことが必要になってくるんでしょう。

志手:だいたい1960年ぐらいに確立した今の建設業の形が、約半世紀ほとんど変わらず来ていたわけですが、ここ20年ほどのIT化の流れで、人でやらなきゃいけなかったことが、人でなくてもできるようになってきた。あるいは、人ではできなかったことがAIやロボットならできることが増えてきた。そういうなかで、だんだんボトムアップの変化が起きてきていると思うんですよね。
ちょっと前までは、職人さんたちにITなんか使えるわけないじゃないっていうステレオタイプが強かったのが、今では現場の職人さんたちの方がIT使いこなしているという状況がすでに来ていますよね。そうすると、ボトムアップの変化に押されて、ゼネコンや設計事務所はじめ、企業の役割もどんどん川上へシフトしていく。それがこれまで話してきたことですが、結局、仕事そのものがなくなるわけじゃなく、役割の範囲が変わっていくだけで、企業自体はその流れに合わせて存続していくんだろうと思います。
むしろ僕が問題だと思っているのは、そうした業界の変化に対して報酬制度がついてきてないことです。たとえば設計の「告示98号」に基づく報酬制度は、いまだに図面何枚でいくらみたいな世界のままで、もはや図面っていらないでしょっていう仕事も増えてきているのに、それでは報酬がもらえない。あるいは、基本計画の部分での報酬をもらいづらいっていう状況もある。重層下請けみたいなものからなかなか抜けられなかったりとか、報酬制度に縛られるのはゼネコンも一緒かもしれない。制度を変えていかないと疲弊する方々が増えていって、それを嫌だなと思って飛び出していく若い人も多くなっていくだろうという危惧があります。新しいことに興味がある人材はどんどん企業を飛び出している時代になってきてると思います。昔はタブーだったけど、今は同業者間での転職もありますからね。

石田:BIMやってる人なんか、スーパーゼネコン間でも転職していきますからね。やっぱりみんな、ちゃんとした報酬がもらえるところに行きたいわけですから、人材の流動性や人の活躍の仕方は変わっていくと思いますよ。

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