【建設AI対談 – 後編】建設業界にもAIが「あたりまえ」になった未来に、それでも「人間」ができることは

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人工知能(AI)の応用がさまざまな産業で本格化していくなか、産学連携のアカデミック・コミュニティ「建設AIスクール」を共に運営してきた専門家とフォトラクション代表・中島が、建設業界の未来について語り合った。

建設AIスクールの取り組みを振り返りながら、AI時代の建設人材と教育のあり方を考えた前編に続き、対談の後半では、AIの発展やCOVID-19など、社会のマクロな変化と結びつけながら、建設業界の未来を描いていく。

前編:AI時代に建設業界はどう変わる?産学連携「建設AIスクール」の挑戦

AIで建設業は、本当に効率化するのか?

中島貴春(以下、中島):ここまで、「建設AIスクール」を振り返りながら、大学教育を中心にお話をしてきましたが、後半は建設産業のフィールドでのAI活用について、より具体的に掘り下げていければなと思っています。同じ建築分野ではありますが、先生方3人それぞれ異なる専門の観点から、建設業界におけるAI活用の現状や、今後の可能性について、お話いただければ嬉しいです。

写真左から、株式会社フォトラクション代表取締役の中島貴春、東京電機大学の小笠原正豊准教授、芝浦工業大学の志手一哉教授、早稲田大学の石田航星講師

石田航星(以下、石田):僕は材料施工を専門として、AIだけでなく色んな情報技術をその時々に使ってきたわけですから、結局「道具」だなと思っているんですよね。もちろん、情報分野でそれをメインとして一生懸命研究されている方もいますけど、どこに軸足があるかというと、僕の場合は建築が主ですから。たとえば形状を測るためにレーザースキャナとか写真測量とか精度に応じていろんな道具を選んでいくけれど、それは、改修工事が効率化したり、現場の施工品質が改善したりといった「目的」があって適切な道具を選ぶというだけの話です。

中島:あくまで道具として、AIも目的に合うかどうか、と。

石田:そうです。事実として、みんなどんどん新しい道具を使うようになっています。いまさら紙の野帳を使うのかと言われると、そりゃあiPadで「eYACHO」使った方が良いよねとか、写真をバラバラに撮って終わりじゃなくてフォトラクションみたいに写真管理ソフトを使った方が便利だよねとか。
でも一方で、道具を使わなくても解決できる問題もいっぱいあるんですよね。町の工務店の人とか、海外の途上国で建築をやっていますって人と議論したときに印象的だったのが、一番安く作ろうと思ったら、建築家が現場に行って対応した方が圧倒的に低コストなことがほとんどだという話でした。最初からBIMを使って全部決めてその通りに作るよりも、何か不具合が起こったら、構造上・法律上問題がないことを確認した上で図面に反映して設計を変える、つまり設計者が譲った方が絶対安くできると(笑)。まぁ、確かに事前に全部決めると面倒くさいよねって思ったんですよ。だから、必ずしも情報化したら効率化するのかっていうと、そうとは限らない、ということは言っておきたいですね。

石田航星
1986生生まれ、34歳、早大建築学科専任講師(建築施工)
早大創造理工部建築学科卒(平21)、同大学院修了、同博士課程進学、2012年早稲田大学建築学科助手、2014年工学院大学建築学部助教、2018年より現職

中島:一つ一つの案件レベルでは、AIありきではなく他の方法の方が効率的なことはまだまだあるんでしょうね。ただ、それは業界全体レベルで見れば、まだ過渡期だからなのかなと。AIで自動化・効率化できるノンコア業務がもっと整理されていくと、最終的に色々変わっていくんじゃないかとも思うんです。

石田:うーん、まぁ、そうかもしれませんが……でも僕はやっぱり、あくまで建設産業が主で、情報系の人たちが従として、目的に応じて譲る・合わせるべきっていう立場です。建築分野で蓄積されたノウハウや仕組みがデータベースとしてたくさんあって、それによって初めて賢いAIが開発・活用できるわけですから、たとえばゼネコンでデータを共有するコンソーシアムをつくるとか、元となるデータをつくる建設業界側がイニシアチブを取るべきだと思うんです。
AIスクールの学生さん達もみんな優秀ですごいなって思うんですけど、けっこうホイホイとIT企業の人たちにデータセットを渡しちゃうんですよね。僕は一応忠告するわけですが、世代的に自然とGoogleナイズされているっていうか、あ、そっち側に行っちゃうんだみたいな。いや、中島さんの前で言いづらいんですけど(笑)。

中島貴春
1988年生まれ。2013年に芝浦工業大学大学院建設工学修士課程を修了し、株式会社竹中工務店に入社。大規模建築の現場監督に従事した後、建設現場で使うシステムの企画・開発およびBIM推進を行う。2016年3月に株式会社フォトラクションを設立。創業から一貫してテクノロジーを用いた建設業の生産性向上支援に携わる。

中島:(苦笑) 学生は、まずAIを学んでつくって使ってみるっていう楽しさもあるでしょうし、産業同士の力関係や、それがビジネスにどう影響するかっていうのは、やっぱりなかなかイメージしづらいと思います。
建設産業の側も、いわゆるノンコア業務、例えば野帳の作成とか写真の整理とかっていうものは、本来全ゼネコンが同じやり方で管理しても良いはずなんですよね。そういう標準化されるべきなんだけれど、業界としてさぼってきた業務がたくさんあると思っていて、フォトラクションもその課題を解消しようとしています。ただ学生からすると、ゼネコンが業界の中でどんな役割を担っているかもイメージできないし、データをどう活用してくれるかもわからないから、「全世界にデータセットをばらまいた方が、面白いことが起こるんじゃないか」ぐらいの感覚になっちゃうんだと思います。

小笠原正豊(以下、小笠原):業務効率化・標準化のための研究開発組織を、ゼネコン企業ごとに個別で持つ必要もないんじゃないかと思うんですね。フォトラクションさんもそうですけど、現場単位では使う人、つまり職人さんたちが便利だと思うものはどんどん使われていってそれで効率化が進んでいるわけですから。
少し前はやっぱりAIがバズワードになって、なんでもいいからAIの研究開発しろって予算がついて、企業間で競争するみたいな時期がありましたが、それで何が生まれたのかと(笑)。例えば鉄筋組むロボットだって、ゼネコンが作ったものより、鉄筋の専門工事会社が作ったロボットの方をみんな使うわけじゃないですか。そういうふうに、良いものはユーザーに近いところでどんどん作られていくわけだから、どこか一社のゼネコンで囲い込むのではなく、データも使いみちもオープンになっていった方がいいだと僕は思います。ただ、先ほど石田先生が言われたように、GoogleはじめIT産業側とどう付き合うのかということは、業界全体としての戦略として持っていた方がいいかもしれませんね。

小笠原正豊
1970年生まれ。米国NY州登録建築家。2016年東京大学工学部建築学科卒業、2020年ハーバード大学デザイン大学院建築学科修士課程修了。米国での設計事務所勤務を経て東京にて設計事務所設立。2019年4月より東京電機大学未来科学部建築学科准教授。

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