【建設AI対談 – 前編】AI時代に建設業界はどう変わる?産学連携「建設AIスクール」の挑戦

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これからの建設業界に求められる人材は?学生は大学で何を学ぶべきか

中島:人材を社会に輩出していくことが大学のコアな役割の一つだと僕は考えているのですが、AIの発展も含め、時代と共に必要な知識や使う道具が変化していく中で、大学はどういう人材を育てて社会に輩出していくべきなのでしょうか。先生方のお考えを聞かせていただけますか?小笠原先生は、海外で設計のお仕事をやられていましたが、海外と比較しての視点もあれば、ぜひ教えていただきたいです。

小笠原:難しい質問ですね……(笑) 結局、CADでもBIMでも、コンピューテーショナル・デザインでもAIでも、どんな最先端と言われる道具や技術も、時間が経ったら陳腐化しちゃいますよね。
私が日本で教育を受けてからアメリカに行く頃(1990年代後半)って、日本では基本的にみんな手書きで図面を書いていて、少しずつMacでMiniCADとかを使い始めていた……という感じだったのが、アメリカではすでにかなりの人がAutoCADで描いていたんですね。でも、今ではアメリカの組織設計事務所ではもうほとんどAutoCADを使っていなくて、Revitが主流になっているんです。

中島:おお、そうなんですね……!

小笠原:昔から続いているアーバン・デザインやアーバン・プランニングのプロジェクトでは、まだまだAutoCADも現役で使われているみたいですが、組織設計事務所が新築の設計するときはほとんどRevitがメインみたいですね。でも、僕がアメリカの建設業界を見て一番印象的だったのは、どんなツールが主流かということ自体ではなく、それを使う人たちの姿です。昔は手書きで図面を書いていた方が、歳をとってリタイア直前になってもなお学び続けていて、自分でRevitを動かしているというのを聞いて、すごいなと。
その人たちにはやっぱり、時代を越えて環境に適応し続ける能力が備わっていると思うんです。そこに僕はすごく興味があるので、学生たちにも、今ある”最先端”のツールが使えるかどうかではなくて、よりメタで本質的な領域に到達してほしいっていう願いを持っていますね。やっぱり建築というものが実体を持つ不動産として地面の上に存在する以上、建物が地面に対してどう作用するのかとか、どのような部材をどう組み立てていくのかということは、使用するツールに関係なく、しっかり学ばなければいけない。それは、日本もアメリカも、大学も企業も、変わらないんじゃないかなと。

中島:時代を越えて変わらない本質的な価値をいかに学ぶか、ということですね。志手先生はいかがですか。

志手:学生が最初に出してくる研究計画って、彼らの見える世界の中で、無理に社会に役立てようとして「目的」を設定しがちなんですよ。で、僕はいつもその部分のマインドチェンジを春先ぐらいにやるんです。あなたはその目的がないと研究やらないの?なんのために研究をやるのかってそんな簡単にわかんないでしょ?っていう(笑)。
そんな、企業や産業にとっての具体的なメリットなんて学生は考えなくていい。もっと大きな問題に目を向けてほしい。例えば、「サーキュラー・エコノミー」に建設はどうやって貢献するのだろうとか、もっと大きな視点で考えられるようになってほしい。そんなことを考えながら、学生と付き合っていますね。

中島:僕もそうだったかもしれないんですが、最近の学生は変に「お利口」っていうか、真面目で器用でいろいろなことができるからこそ、そういう大きい流れよりも、目の前のメリットとかデメリットを考えて動きがちなのかもしれません。SNSなどの影響もあるんでしょうか……。

志手:どうなんだろうね、日本人の学生って得てしてそういうものだったかもしれないですね。僕はあえてそれを壊して、マインドチェンジしていきたいと思っていますが。

中島:そのマインドチェンジのためにはやっぱり日々のゼミの問いかけとか、そういう一個一個の経験の積み重ねが大事なんでしょうね。

志手:そうですね、関わり続けるなかで地道に軌道修正していくしかないと思います。企業のメリットになることは、企業が考えたらいいじゃないか、というのが僕のスタンスです。

中島:企業のメリットを学生が無理に考える必要はない、と。たしかに。僕が人材輩出という言葉を使いましたが、卒業後の学生がみんな企業に就職するわけではありませんし、研究者人材の育成も大切だと思うんです。ずっと研究職でやられている石田先生のご意見もお聞きしたいです。

石田:うーん、そうですね……「研究をする」ということで言えば、必ずしも大学などの「研究職」というポストにこだわる必要はないと思います。建設の世界は、現場の人が特許を取ったり、学術大会に発表しに来てくれたりと、意外と自由なんですよ。もちろん、研究によってお金がかかるものとかからないものの違いもありますし、現場で働きながらできる研究ばかりではないですから、研究職として、研究そのものに対して給料をもらえた方がやりやすい面もありますが。テーマとやる気次第じゃないですかね(笑)。

中島:AIなどの情報産業が発展することで変わることもあれば、建築というドメインの中で変わらない部分もある。大学での学びを考える上では、トレンドに振り回されすぎないことも大事なのかもしれませんね。

志手:「建築×AI」とか「建築×情報産業」っていう複合的なカテゴリーで、大学の時に絶対学んだ方がいいっていうものはないんじゃないかなぁ。
図面を引いて線の1本1本を見るとか、たくさん建物を見に行くとか、そういう「体感する」ことにたっぷり時間をかけるというのは、社会に出るとなかなかできないことなので、学生のうちにぜひやってほしいですね。AIとか情報産業を建築と複合させた活用っていっても、例えばその建物を探しに行くのにGoogleマップを使うとか、自分がいいなと思ったものをSNSで表現・発信するとか、それぐらいじゃないですかね(笑)。各々を学べばそれらの複合的な使い方は自然と発想できるので、あまり「建築×AI」みたいなことを意識しすぎる必要はないんじゃないかなと思っています。

小笠原:大学での教育、大学時代に何を学ぶか、難しいテーマですよね……。その中で、今までお話をお聞きしていてあえて「建築×AI」でお話するとしたら、「アカウンタブル(説明可能)な設計」というのは重要な概念になっていくと思います。
AIを使ってたくさんのデータを分析して知見を蓄積していくと、例えば「設計した建物が実現したら、どのようなものになるのか」というのが、実際に建てる前から、より明確に評価できるようになる。評価しつつ設計をできるようになるっていう点では、AIの影響がかなり大きいですし、それはいずれ設計という営みの中にも、教育の中にも自然と入ってくるだろうと思います。

小笠原:一方で、設計も研究もそうなんですけど、やっぱりロジックでは説明できない部分ってあるんですよね。仮説があって、こうやったらできるだろうと、すでに見えているのをひたすらやるんじゃなくて、とりあえずやってみて、駄目だったからちょっと変えてみて、みたいなことを、効率性を意識せずにひたすらやれるのってやっぱり学生ならではの特別な時間だと思います。仮説や結論が見えていないなかで、イマジネーションをもとにつくるというのは、やっぱりまだまだAIには難しいように思います。設計を例に「アカウンタブルな設計」の話を出しましたが、「建設×AI」と一口に言っても、AIがどんどん入ってきて存在感を増してくる部分と、やっぱり人間にしかできない部分とは、切り分けて考えていきたいなと思います。

産学連携だからこそできることは?基礎の外側にある「遊び」の価値

中島:これまで先生方のお話を聞きながら、「建設AIスクール」の価値や役割ってなんだろうということを改めて考えていました。やはり、時代を越えても変わらない基礎の部分は大学でしっかり身につけていく一方で、その外側にある「遊び」の部分といいますか……別にそれはAIじゃなくてもVRでも何でもいいんですが、本人が面白がれるものを見つけたり、それを探求する環境や仲間と出会ったり、そういうきっかけが生まれる場でありたいなと思います。

中島:それから、建設AIスクールで学生たちとかかわることは、フォトラクション社員をはじめとする参加企業の社会人にとっても良い刺激になっているようです。民間企業の場合、AI活用といっても、それぞれの企業・事業の枠組みの中で利益につなげていくことが求められるので、遊びの余地がどうしても小さくなってしまいます。それが、学生たちとかかわるなかで「今の若い世代はこういうことを考えているのか」ということを知ったり、制作物を受けて刺激を受けたり、彼らもまた「遊び」を取り戻すきっかけを得ているように思います。

小笠原:そうですね。利益につながるかどうかだけではない、本人を突き動かす衝動やパッションの力ってものすごいものがありますよね。先日、大学の卒業設計の講評会があったんですけど、なぜかわかんないけどすごい評価される作品が出てくるんです。それらは論理的にはけっこう破綻しているんだけど、圧倒的な画力があったりとか、本人の情念が作品からほとばしっていたりとか、理論を積み重ねてできることを越えた、何か人間じゃなきゃできないエネルギーが込められた作品で。そうした作品は、つくった本人だけじゃなくて、周りの人にも「それはいいよね」って伝わるんだよなというのを、中島さんの話を聞いて思い出しました。

(後編に続く)

後編:建設業界にもAIが「あたりまえ」になった未来に、それでも「人間」ができることは

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