【建設AI対談 – 前編】AI時代に建設業界はどう変わる?産学連携「建設AIスクール」の挑戦

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人工知能(AI)の応用がさまざまな産業で本格化している。「○○×AI」といったフレーズを耳にすることも多くなった。

たとえば、医療×AI。CT画像等の臨床データをAIに分析させ、病気の予測や予防・治療に役立てるなど、人々の健康を守るためのAI応用事例が数多く生まれている。人間の「職人」的な技術がものを言うと考えられてきた産業においても、AIの応用は着実に進んでいるのである。

ならば、建設産業においてもAIの活用可能性は大いにあるはずーーそんな思いを持った建設産業の担い手たちが、建設産業においてAIの活用を促進させる基盤を構築することを目的とする産学協同の取り組みを行なっている。

大学生を中心としたアカデミック・コミュニティ「建設AIスクール」と銘打って、Deep Learning (深層学習)をはじめとするAI技術の学習と実装を経験しながら、建築産業でAIをどう活用し実運用するべきかを考え、研究活動と成果物(論文)発表まで行う、1年間のプログラムだ。学生たちには、大学教員とコンソーシアム参加企業の研究者たちがメンターとして伴走する。

この記事では、建設AIスクールの2年間の取り組みを振り返っての対談の様子を通して、建設業界におけるAI活用の展望や、これからの建設業界に求められる人材像について考えていく。語り手は、芝浦工業大学の志手一哉教授、東京電機大学の小笠原正豊准教授、早稲田大学の石田航星講師、そして株式会社フォトラクション代表取締役の中島貴春の4名。

AIを建設業にどう活用できるのか?建設AIスクール2年間の歩み

中島貴春(以下、中島):今日はよろしくお願いします。「建設×AI」というテーマを中心に、建設産業の課題や未来、大学と企業の連携、人材輩出など、幅広くお話をできればと思います。まずは「建設AIスクール」の2年間を振り返っての、先生方の感想をお聞かせ願えますか。

中島貴春
1988年生まれ。2013年に芝浦工業大学大学院建設工学修士課程を修了し、株式会社竹中工務店に入社。大規模建築の現場監督に従事した後、建設現場で使うシステムの企画・開発およびBIM推進を行う。2016年3月に株式会社フォトラクションを設立。創業から一貫してテクノロジーを用いた建設業の生産性向上支援に携わる。

志手一哉(以下、志手):正直最初は、学生にとっては敷居が高いかもしれないなと思っていましたが、やってみると意外と「おお、学生頑張ってるな」と(笑)。新しい取り組みなので、最初は我々も手探りでしたし、参加する学生たちのプログラミングに関する知識もバラバラでしたから、1年目は何をどう学習するか、そもそもの環境づくりが大変でしたね。

志手一哉
1971年生まれ。1992年株式会社竹中工務店入社、施工管理、生産設計、研究開発に従事。2009年に修士(専門職)、2013年に博士(工学)を取得後、2014年に芝浦工業大学 工学部建築工学科准教授、2017年4月より同大学建築学部建築学科教授。

中島:確かに。「モデルとはなんぞや」みたいな、土台としての基礎知識をどう揃えていくかも手探りでしたね。

志手:ただ、2年間続けてきたおかげで、基礎から実践まで一通り回していく道筋はだいぶ見えてきたかなと。この先、より応用的なところにどう進んでいくかというのは悩ましいところですね。本格的な研究や、社会に出てからの実践にどう橋渡ししていくか……。

小笠原正豊(以下、小笠原):学部共通のカリキュラムの中には、たとえば「Python基礎」のような授業はあるのですが、本当に基礎を学ぶだけというか、学生がそれを応用する機会がほとんどなかったんですね。建設AIスクールは、プログラミング技術が実際にどう建設業に応用できるのかという気づきの機会になったのが、学生にとって大きな価値だと思います。建設×AIというテーマに興味のある学生が、それを探究する機会や環境がこれまでありませんでしたから。

小笠原正豊
1970年生まれ。米国NY州登録建築家。2016年東京大学工学部建築学科卒業、2020年ハーバード大学デザイン大学院建築学科修士課程修了。米国での設計事務所勤務を経て東京にて設計事務所設立。2019年4月より東京電機大学未来科学部建築学科准教授。

中島:そうですね。建物がどう作られていくか、そのなかでAIなどの情報技術をどう応用できるのか、そういうことを学生たちが考えるきっかけになったなら嬉しいですね。

小笠原:もちろん、AIに関する一定の基礎知識や技術は必要になりますが、「AIについて学ぶ」ことよりも、「AIが建設業や社会にどう役に立つのか」という、より大きなビジョンを得るきっかけになるという点に、建設AIスクールの価値を感じています。

中島:ありがとうございます。石田先生はいかがでしょうか。ITの建設生産への応用をご専門に、スクール発足以前からこの領域の変化を見てこられたかと思いますが……。

石田航星(以下、石田):やっぱり、ものすごく変化の早い世界なので、プログラミングを専門としない、建築・建設を主とする人たちにとっての参入障壁がどうしても高くなっていってしまうなというのが、正直なところです。

石田航星
1986生生まれ、34歳、早大建築学科専任講師(建築施工)
早大創造理工部建築学科卒(平21)、同大学院修了、同博士課程進学、2012年早稲田大学建築学科助手、2014年工学院大学建築学部助教、2018年より現職

石田:10年前だったら、そもそも建設へのIT応用なんてやっている人がほとんどいなかったし、IT産業の人たちも建設なんて興味なかったでしょうから、建設業界の片隅の「微分村」みたいな世界で、和気藹々とちょこちょこってやっていればそれで最先端だったんですよ(笑)。AIに関しても、3年前ぐらいからディープ・ラーニングが流行りだして、企業からも「なにか一緒に研究やりませんか」って声がかかって、僕も手探りで勉強しながら、認識アルゴリズムつくって、「こんなことができるのか、面白いな」って感じでした。3年経った今だと、それではもう論文にもならないぐらいに技術も研究も進展しています。
どうしても、AI技術自体が、「海外で作られた最先端の仕組みを日本に取り入れてコピーして使う」ということになりがちで、さらにそれを、建築学科で建築全般を勉強しながら学生が学んでいくというのは、かなり大変です。世の中はチュートリアルレベルで止まってくれないので、技術自体はどんどん高度化していく中で、どうオリジナリティを見出していくのかが難しいですね。

中島:確かに、大変な時代ですね……。やはり建設×AIという観点では、建設産業の中で、どんな仮説を検証していくのかという「テーマ」設定が大事になってくると感じました。

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