【建設AI対談 – 前編】AI時代に建設業界はどう変わる?産学連携「建設AIスクール」の挑戦

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建築学科に入る学生の興味関心の変化に、大学教育はどう対応するか

志手:建築学科に入ってくる学生たちの興味関心も変わってきましたね。一昔前はもっと、「建築考えたい」とか「建築家になりたい」とか、建築どっぷりの学生が入ってくるのがほとんどだったのが、今1年生で入ってきている学生の中には「ゲーミングが」とか「VRが」とか、そういう話をしている子がいます。情報領域への興味を持って入ってくる学生がどんどん増えてきているなかで、今の大学カリキュラムの中ではそうした関心にほとんど対応ができないのが現状です。だからこそ、建設AIスクールのような産学連携の環境が必要になってきているわけですが、それを大学カリキュラムに取り入れることはなかなか大変です。
同時に、企業が求める人材も相当変わってきていますね。建設大手の企業が学生向けの採用サイトで「建築の会社だと思わないでください」みたいなメッセージを出しているのも目にしました。建設業に求められる人材像としても、情報学的な知識がある程度あって当たり前の時代になってきているんだということを、ひしひしと感じています。

小笠原:SNSの広がりも大きいですね。大学の学内で先輩から後輩に受け継がれる内容だけでは足りないなというときに、学生たちは「Twitterでどこどこ大学の誰々がこんなことやってた」という情報をキャッチして見学に行くとか、インターカレッジでの学びが自然に広がっている様子です。大学を横断するだけでなく、実務で活躍しているカッティング・エッジな方々の発言や実践にも触れやすくなっています。新しいデザイン手法や、デジタル・コミュニケーションへの関心が強まってくるのは自然な流れなんでしょうね。

中島:情報技術に興味のある学生が建築学科に増えていったというのは、僕もそうなんですが、お三方の中では石田先生の世代がはしりなのかなと。今の話を受けて、いかがでしょうか?

石田:うーん、何だろう。もちろんみんな興味はあるんだろうけども、じゃあすごくプログラミングができる学生が入ってきてるかっていうと、そう感じたことは一度もないのが正直なところですね。アニメが好きな子が声優やアニメーターに憧れるのと同じように、ユーザーとしてゲームやVRが好きだからデジタル・デザインやってみたいっていう程度の話だと思うんですよ。興味があるのは別にいいんですけど、興味があるだけで実践が伴うわけではないので、建築学科に入る学生の技術水準が上がったわけではないというか。

中島:なるほど……。

石田:もっと早い時期からプログラミングに慣れ親しんで、トップ・プレイヤーとして活躍するライバルは、情報学科とかにはいっぱいいるわけです。18歳過ぎて建築学科に入ってから、デッサンとか手書き製図の勉強の片手間でプログラミングを一生懸命勉強したところで、プログラミングの世界でトップクラスになるのはほとんど無理ですよ(笑)。
日本の場合、建築士制度の兼ね合いもあって、製図はどうしても避けて通れないので、教育機関としては製図含めた基礎教育にやっぱり時間をかけなきゃいけない。もちろん、手書きデッサンやってみて、苦手な人はコンピューター製図やってみても良いんじゃないというように、障害への合理的配慮も含めて、必要に応じてやり方は調整しますよ。でも僕は基本的に、学生には「建築」の勉強をまず一生懸命やらせた方が良いと思っているんです。建築へのIT応用という観点からしても、そうです。

中島:というと?

石田:この10年、最先端の「開発」のレベルに参入するハードルはさておき、「応用」するというレベルでの参入障壁はむしろ下がっていっていると思います。C++やPythonにものすごく詳しくて自分でコーディネートできますってレベルにならなくても、基礎的なところがわかっていればソフトウェアを使って色々できるな、ということになってきていますから。じゃあ「VRがやりたい」「デジタル・デザインがやりたい」っていう学生に、プログラミング言語やソフトの使い方だけを教えれば良いかというと、それでは3Dデータは作れないんですよね。やっぱり建築の形状の理解とか、建築学を基礎として身につけてはじめて、ソフトウェアを活用して実践できるようになるので。

中島:たしかに、建築の基礎をしっかり学んでないと、ソフトウェアがあっても何をつくればいいかわからないですからね。

石田:うちの大学は留学生も少なくないんですが、意外とそれは、デッサン含め「アナログ」なものへの憧れも大きいのかなと感じます。日本の建築学科は、海外よりデジタル・デザインの取り込みは遅れているわけなんですが、時代が一周回ってみんながデジタルやるようになったから、かえってアナログで競争性が出てきてしまったという(笑)。果たしてそれでいいのか、という問いはありますが。

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