【建設業向け】実行予算の基本と実践ガイド!作り方や費用項目、注意点を解説
最終更新日:2025/08/19
工事現場の基礎知識

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建設工事の実行予算において、従来の非効率的な作成方法や管理に悩まされていませんか?
実行予算が適切に設定されていないと、工事進捗に対するコスト差異の拡大やマージンの圧縮を招き、最終的にはプロジェクト全体の収益性悪化につながります。
そのため、費用項目を正確に把握し、妥当性の高い予算策定プロセスを確立することがプロジェクトの完遂に不可欠です。
この記事では、実行予算の定義から具体的な費用項目、作成時の重要ポイントまで徹底解説します。
各現場におけるコストの透明化と最適化で、利益向上につなげたいという方は、ぜひ最後までお読みください。
【目次】
実行予算とは

建設業における実行予算は、工事現場ごとに資材費・人件費・外注費・諸経費を細かく洗い出し、採算性を可視化する予算書です。
現場状況や工期に応じて費用項目を細分化し、粗利益を精緻に予測します。進捗に応じて実行予算書を随時更新することで、赤字リスクを早期に把握できます。これにより、コスト最適化や利益の確保につながるのが大きな役割です。
また、事務所と現場間、元請けと下請け間での情報共有ツールとしても機能し、予算管理の標準化と効率化を実現します。
実行予算の重要な目的

実行予算は、建設プロジェクトの原価管理の基盤となり、予算の超過や収益の悪化といったリスクを未然に防ぐ要となります。
ここでは、実行予算の重要な3つの目的を解説します。
コストオーバーランの未然防止
実行予算をフェーズごとに細かく設定し、定期的に「予算と実績の差異」をレポート化すれば、資材費や人件費の過大支出を迅速に把握できます。
これにより、発注数量の調整や作業手順の見直しなど、的確な対策を実行して無駄なコストの蓄積を防ぐことが可能です。
さらに、現場担当者と本社管理部門が同じデータを共有することで、意思決定の一貫性が高まります。
原価管理の強化
実行予算書の作成により、資材費・労務費・機械リース料・諸経費が、工種別・工程別に細分化されます。
これを週次更新することで、各現場における最新の支出状況が容易に把握できます。さらに、クラウド型ツールを活用すれば、現場と本社間の情報共有が円滑になり、重複発注や追加コストを抑制できます。
このような運用ルールの策定により、ヒューマンエラーを大幅に減少させることが可能です。
プロジェクトの成果評価と経営改善
プロジェクトが実行予算内で完遂できたかどうかは、マネージャーやチームのパフォーマンス評価に直結します。
もし予算超過が発生した場合、その原因を掘り下げて改善策を検討し、次回プロジェクトでの効率化に役立てます。さらに、実行予算をベースに経営資源(人員・重機・資金など)を最適配分することで、経営層の戦略的な意思決定を強力にサポートします。
実行予算・基本予算・見積・積算の違い

実行予算の主な目的は、各現場ごとの実際の支出をリアルタイムで管理し、コストをコントロールをすることです。
基本予算・見積・積算とは、明確に目的が異なります。
項目 | 主な目的 |
---|---|
実行予算 | 現場の実支出を管理し、予算超過を防ぐ |
基本予算 | プロジェクト全体の資金計画の基準を定める |
見積 | 顧客提示価格を設定し、採算性を担保する |
積算 | 図面・仕様から数量を算出し、見積精度を高める |
基本予算の目的
基本予算の目的は、プロジェクト開始前に大枠の資金計画を策定し、企業全体の資金配分や資金調達の判断基準とすることです。
これに基づき、経営層は長期的なキャッシュフローを見据えた資金計画を立案し、予算超過や資金不足のリスクを低減できます。
見積の目的
見積の目的は、工事に必要な費用を受注前に算出し、顧客への提示価格を合理的に設定することです。
適正な利益率を確保しつつ、入札や契約交渉での競争力を高め、受注機会の最大化を図ります。
積算の目的
積算の目的は、図面や仕様書から資材費・労務量・機械使用量を詳細に計算し、見積の精度を高めることです。
正確な積算がコスト見通しの土台となり、予算策定時の誤差を抑え、実行予算や基本予算の信頼性を向上させます。
実行予算の費用項目

建設工事で実行予算を正確に作成するためには、以下の費用項目を網羅的に把握することが重要です。
費用項目 | 詳細 |
---|---|
工事原価 | ・直接工事費:材料費(コンクリート・鋼材・木材・塗料など)、労務費(作業員・機械オペレーター人件費)、直接経費(水道・光熱・機械経費) ・間接工事費:共通仮設費(足場・仮囲い等)、現場管理費(安全衛生・工程管理等)、一般管理費(サポート業務・広告費等) |
外注費 | 電気工事・配管工事など、専門技術を持つ外部業者へ委託する際の費用 |
機械費 | クレーンやショベルカーなどの重機レンタル料、保守・点検費用 |
現場経費 | ・給料:現場スタッフへの賃金 ・保険料:労災保険・火災保険など ・地代家賃:事務所や仮住居の賃借料 ・旅費交通費:移動・物流コスト ・通信費:電話・インターネット利用料 ・事務用品費:現場事務で使用する文具等 ・消耗品費:手袋・ヘルメット等の消耗品 |
管理費 | 現場監督や事務所維持にかかる人件費・光熱費・消耗品費など |
その他の費用 | 天候不良による遅延対応費、地盤補強の追加工事費用、地元住民対応や法的手続きにかかる弁護士費用など |
リスク予算(予備費) | 不測の事態(資材価格の急騰、設計変更、法令対応など)に備え、あらかじめ一定割合で設定しておく予備費 |
実行予算の作り方と重要ポイント

ここからは、建設業における実行予算の具体的な作成手順と要点を詳しく解説します。
①予算作成者の決定
実行予算作成のファーストステップは、予算作成者を決定し、責任の所在を明確にすることです。
一般的には、現場の状況を最も熟知している現場責任者を任命することが望ましいです。
現場責任者が予算作成に携わることで、工事全体への当事者意識が高まり、利益やコストに対して厳しい視点を持つことができるようになります。
この意識こそ、精度の高い予算策定の基盤を築きます。
②実行予算案の作成
予算作成者の決定後は、具体的な実行予算案の作成に進みます。
このフェーズでは、契約時に作成された見積書の数値をベースに組み替え、実行予算案を作成するのが一般的です。見積書の時点で、工事の枠組みや詳細が多く決定されているため、客観的な数値を基準にできます。
重要なのは、根拠に基づいた現実的な数値を設定することです。主観的・非現実的な数値では、正確なコスト管理や収益率の判断が困難になり、プロジェクトの採算性を誤るリスクが高まります。
材料費・労務費・機械費などの費用項目を正確に見積もり、予期せぬ事態に備えたリスク予算(予備費)も設定しておくことが賢明です。
③実行予算案の調整と決裁
作成した実行予算案は、各部署との調整を得て最終的な決裁が行われます。
この調整は、多角的な視点から予算案を検証し、精度を向上させるために不可欠なプロセスです。経理・調達・営業・現場など、関連するすべて部署が予算の内容を理解し、共有することで、部署間の連携が強化されます。
各工程の責任者を予算案の作成段階から関与させることは、当事者意識をさらに向上させ、プロジェクト進行中の迅速かつ適切な判断につながります。
④継続的なモニタリングと改善
最終的な決裁後も、プロジェクトの進捗に合わせて実際にかかった費用と実行予算をリアルタイムで比較し、継続的にモニタリングすることが重要です。
差異や赤字の兆候を早期に察知し、対策や予算の修正を迅速に行うことが、損失を最小限に抑えるポイントです。
これらのプロセスを効率的に行うためには、さまざまなデータを収集・管理・共有できる建設業向けの施工管理システムが必要とされます。
実行予算書の作成フォーマット

実行予算書は、Excelなどの標準化されたテンプレートや、専用システム(ソフトウェア)で作成するのが一般的です。
以下に代表的な2種類の作成フォーマットを紹介します。
テンプレート
専用システム未導入の現場で選ばれる実行予算書の作成方法は、標準化されたテンプレートの活用です。
テンプレートは自社で作成する他に、インターネット上で他社が作成したものをダウンロードする方法があります。
例えば、あらかじめ資材費・労務費・諸経費の計算式とフォーマットが組み込まれたExcelファイルを活用すれば、簡単な入力だけで自動計算が完了します。ただし、Excelファイルの同時編集は困難であるため、リアルタイムでの情報共有には不向きです。
Google スプレッドシートであれば、クラウド上で複数メンバーが同時編集でき、変更履歴のトラッキングも可能です。現場担当者と本社が同じデータをリアルタイムで共有し、二重発注や漏れを防ぎながら、スピーディに実行予算書を仕上げられます。
専用ソフトウェア・システム
建設業向けの施工管理システムを導入すれば、実行予算書の作成から進捗把握、精算まで一元管理が可能になります。
例えば、クラウド型システムの場合、各フェーズごとの原価をリアルタイムに可視化し、追加発注や手戻りコストの影響を容易に把握することができます。
施工管理システムを導入する際は、自社に必要な機能の有無や操作性、協力会社との関係管理機能、セキュリティなどを選定の基準としましょう。
まとめ
この記事では、実行予算の目的や費用項目、作成手順までをわかりやすく解説しました。
実行予算を適切に作成・運用することで、現場の進捗とコストをリアルタイムで結びつけ、プロジェクトの完遂と収益確保を強力にサポートできます。
精度の高い実行予算は現場判断の質を高め、経営の安定にもつながります。まずは、自社の予算作成プロセスや費目の見直しから取り組み、より実態に即したコスト管理体制の構築を目指しましょう。
実行予算の見直しは、現場力と企業体質の強化につながる第一歩となるため、収益を守る仕組みづくりを始めてみてはいかがでしょうか。