身近な困りごとの解決から始める、無理のない建設DX

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業界の生産性向上に貢献する。そんな情報を1つでも多く皆様に届けられるよう頑張ります!

BIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報をご自身のブログ建設ITワールド」で発信し続ける建設ITジャーナリストの家入龍太さんに建設DXの今までとこれからについてフォトラクション代表の中島が伺いました。

建設ITジャーナリスト
家入 龍太 氏

3DやBIM、ICTによる建設業の成長戦略や挑戦を「ほめて伸ばす」のがモットー。
BIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。

建設DXのカギは建設業界の「ムダ」を解決すること

中島:国土交通省が推進している「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の取り組みなどで建設DXが盛り上がっていますが、今のように生産性向上が進められる以前、建設業界はどのような状況だったのでしょうか?

家入さん:2008年のリーマンショックまでは建設業界で生産性という言葉が出てこなかったですね。建設業界は雇用の受け皿になっており、生産性を向上すると仕事がなくなってしまうという考えもあり禁句になっていたように思います。
しかし、2008年以降は建設業界の生産性を上げなければという機運になり、現在のように生産性向上のための取り組みがされるようになりました。

中島:建設業界はテクノロジーにより生産性向上が進んでいますが、まだまだ効率化できる部分は多いと思います。家入さんは今後どの部分を効率化していくべきだと考えますか?

家入さん:まず、建設業界の生産性向上を考えるうえで2つの軸が重要になります。
「現場の取り組み」と「日本全体の取り組み」です。
現場レベルで行う取り組みは、ロボットやAI(人工知能)などの活用により、付加価値(出来高)にかかる作業人数と時間を削減することで労働生産性が向上していきます。
現場で労働生産性を向上すると総出来高も上がっていきます。例えば、テレワークを積極的に導入して就業者数を増やしたり作業時間を長く確保できるようにすると、総出来高はさらに上がっていきます。そして、これを日本全体で取り組むことが必要です。

今後効率化していくべき部分については、「トヨタの7つのムダ」というトヨタ生産方式におけるムダの定義がありますが、その中の3つが建設業界においても当てはまります。
まず、「動作のムダ」。建設業界だと「移動のムダ」と言い換えられると考えています。例えば、現場に図面がなくて事務所に取りに戻るなど現場と事務所の行き来に多くの時間を要してきました。
二つ目は、「手持ちのムダ」。例えば、コンクリートなどの資材が到着しないことが原因で作業がストップしてしまいます。
そして三つ目は、「造りすぎのムダ」。建物を建てる際は足場を組んだり、型枠を造らなければなりません。最終的に解体し処分することになります。
今お伝えした3つのムダはテクノロジーの活用で効率化を図ることができます。

現場の「困りごと」にフォーカスして、活用するツールを選定する

中島:これからますます建設DXの取り組みが多くなると思いますが、取り組む際にどういうマインドで取り組めばよいのでしょうか?

家入さん:現場で何が困っているのかを判断し、それを解決するためにはどうすればよいのかを考えることが大切です。よくあるDXの失敗例が、ツールをどう使うかということから考えてしまうことです。
そうならないためには現場の「困りごと」を把握して、それを解決するためのツールを導入する形が良いと思います。

中島:建設DXの取り組みの上で大切な現場の「困りごと」について具体例を教えてください。

家入さん:先ほども申し上げた建設業界の「ムダ」に関するものと、人間の目で判断する検査業務などが挙げられます。
「移動のムダ」については、現場と事務所の行き来や会議のために本社に移動しなければならないなどの課題があります。
人間の目で判断する検査業務については、建設中だけでなく建物を建てた後の管理を人間の目で行っているのが現状です。建設業の労働人口が減っているなか、管理者を確保するのにどの企業も大変苦労されています。このような課題は「デジタルツイン」を活用し3Dと組み合わせることによって解決の糸口が見えてくるのではないかと思っています。

中島:上記のような「困りごと」に対して、現在どのようなDXツールが活用されているのでしょうか?

家入さん:例えば「移動のムダ」を解決するサービスでいうと、すでに多くの企業で活用されているタブレットやデジタル野帳アプリ「eYACHO」やフォトラクションで提供している「Photoruction」などのアプリ(クラウド)上で情報を記録できるツールは、「移動のムダ」を削減できます。タブレットについては建設DXのターニングポイントですね。普及されたことにより建設業務のやり方が変わりました。図面や工事写真、書類などタブレットで持ち歩くことができるので、事務所に戻る必要がありません。新型コロナウイルスの影響により、会議がオンラインで完結できることが分かってきましたので、今後はさらに移動せずに業務ができるようになっていくと考えています。
次に「手持ちのムダ」の解決策は、トラックがいつ到着したか知らしてくれるサービスなどを活用することで資材を待つ時間が削減できるかと思います。
また、「造りすぎのムダ」については、工場で建物のパーツを事前に作成し現場で組み立てるという技術があるので、そのような仕組みにしていくことで、足場や型枠を造る回数を削減できます。

※現実空間の工場や製造設備、製品などをデジタル空間に再現し、リアルタイムに現実とデジタルを連携したシステム

家入龍太氏(右)とフォトラクション代表の中島(左)

デジタル化やDXは若手の人材獲得につながる

中島:家入さんが今後建設DXにおいて望むことは何ですか?

家入さん:まずは、紙をデジタル化することが大切だと思っています。また、最近話題の脱ハンコの話でも触れられますが、物体に情報が書かれていることにより「移動のムダ」が発生します。建設DXの促進のために紙のデジタル化は必須だと考えています。
また、建設業界は若い人材が入ってこない一方で、上記のようにデジタル化を進めていたりドローンやBIM、クラウドサービスを活用している企業は若い人材を獲得しやすい流れになっていると思います。
例えば、現場写真整理サービス「カエレル」を提供している株式会社小田島組は、1年で20人ほど新入社員が増えたようです。デジタル化やDXを推進している企業に将来性を感じて入社する若者も少なくないですね。
i-Constructionが進むようになってからは、受注者の生産性についても気にされるようになりました。これにより発注者が受注者の生産性を考慮した基準づくりを進め、建設業界に大きな変化をもたらしました。
今後もさらに建設業界が働きやすい環境になるよう、私自身も分野を問わず様々な企業様と交流し、情報の発信を続けていきたいと思います。

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